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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

婆ちゃん ありがとう

前田眞人

 

 小学校低学年のころ、両親が離婚した。
 それから私は、母親とふたりで暮らすことになった。いわゆる母子家庭になったのである。
 母親は、生活のため、朝から晩まで仕事に追われていたので、私の面倒は、近所に住む祖母がみてくれた。
 祖母が、食事を作ってくれたり、掃除、洗濯までしてくれた。
 ある冬の朝、起きると、頭が痛く熱が出て、体が重く感じられた。それにも増して、声が全然出なかった。
 学校を休み、祖母が近くのかかりつけの医院に連れて行ってくれた。
診察してもらい、家に帰り薬を飲んで、熟睡した。
 正午近くまで眠ったと思うが、熱はやや引いたが、相変わらず声は出なかった。
 このまま、一生、声が出なかったらどうしようかと思うと、とても不安にかられた。
 すると、「コトン、コトン」と、台所でまな板の上で何かを切る包丁の音が聞こえてきた。そしてそれと一緒に甘い香りがしてきた。
 祖母は、声が出なく不安がる私を心配して、何かを作り出したのである。
 それから数時間経ち、祖母がコップに入れた飲み物を持って来てくれた。
 「これ飲んでみなさい。大根蜂蜜よ。」
 私は、藁をもすがる思いでそれを飲みほした。蜂蜜に大根を浸し少しねかした物であったが、飲んでから三十分くらいすると、不思議とかすかに声が出てきた。
 祖母が言うには、祖母が小さい頃、大根あめと言って咳止めやのどの痛みにいいと言われ、祖母の母親が作ってくれたのだと言う。
 それから、数十年経ち、ある年の夏の暑い日、都会に出た私は、久方ぶりに、故郷に帰った。
 何故かというと、祖母の葬儀のためである。葬儀は、近所の門徒の寺で滞りなく行われた。
 私は、棺の中に、昨晩、自分なりに作った大根蜂蜜をそっと忍ばせた。
 葬儀が終わり、ふと、上空を見上げると、蜂蜜の甘い香りが、あたり一面に、広がっていた。
 私は大空に向かって叫んだ。
 「ばあちゃん、ありがとう。」
 すると、自然に、瞳から、涙がほほを伝わった。

 

(完)

 

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